幼い頃から生簀(いけす)が好きで、
私にとっては一番身近な水族館のような感覚。
町の魚屋さんなどで子供たちが食い入るように
生簀を見ているなんてことは
今も昔も変わらない光景だが、
たまにいい歳の大人が混じっていたら、
それは私かもしれない。
この生簀の魚はどこからどうやって
ここまでやってきたんだろうと
魚とにらめっこしながら考えることも。
今回は福良の別所水産さんにご協力いただき、
魚が漁師さんから店の生簀に辿り着くまで道のりに密着させていただいた。

魚は店の生簀まで
どのようにして
やってくるのか?
魚が店の生簀までどういうルートで来るのか
追いかけたいんです!
そんな謎すぎる熱意を別所水産さんは面白がってくれた。「朝の9時半ごろ、来てくれる?たぶん見たいものが見れると思うよ」。案外遅い集合時間で内心ほっとする。「漁師さんが釣りに出ていくのは早朝だけど、うちが魚をもらいに行くのがそのぐらいの時間帯から。契約している漁師さんが近くの漁港に着いたら、電話をかけてきてくれるんや」。

約束の時間に別所水産さんに赴くと、すでに魚を買いに来た鮮魚店や飲食店などでごった返していた。みんな鋭い目で今日イチの獲物を探している。「今日、三宅さんに密着してもらうことになってるから」。なかなか漁師さんから呼び出し電話はかかってこず、店のお客さんにインタビューをはじめていると、三宅さんが携帯をにぎりしめ、急に走り出した。「漁師さんが漁港に着きました。出発しましょう!」。






簡易の生簀が荷台に載った軽トラックで目の前の福良漁港に到着すると、
すでに一艘の船が桟橋に横付けされていた。漁師さんが慣れた手つきで船内の生簀の魚を、水色のケースに移す。「今日はどないですか?」「まあまあやな。ウマヅラハギが多いで。冬の魚やのに、ほんま最近ようとれるわ」とおそらくいつもの会話を交わしながら、三宅さんは船内に乗り込み、大量に魚が入ったケースを軽々と持ち上げ、陸上で待っている同僚の高田さんに渡す。船内の水槽の魚が全部なくなるまで淡々とこの作業を進めていく。見る見るうちに軽トラの生簀は魚で埋め尽くされた。軽トラの生簀になみなみと入ったウマヅラハギは、時折ギュ、ギューと鳴く。ウマヅラハギって鳴くんだ。興味津々で凝視していたら、口から泥みたいなのを顔めがけて吐かれ、肝を冷やした。





再び軽トラに乗り、別所水産に戻る。
息継ぐ間もなく、軽トラの魚たちを順に計量してから(漁協に報告のため)今度は広々とした別所さんの水槽へと移し替える。さきほどまで海で泳いでいた魚が勢いよく水をはねながら、生簀へと滑り込んでいく。ここからも次々と漁師さんから電話がかかってきて、魚のピックアップに出かける。福良漁港の他、伊毘、阿万、丸山、鳥飼、都志など多くの漁港の漁師さんや漁協と取引しており、これが14時ぐらいまで続く。

【取材日、各漁港より集まったおさかなコレクション】






15時過ぎ。
「今朝の魚、とっくりさんまで今から配達に行くので、一緒にいきますか?」いよいよお店の生簀に運ばれる瞬間に立ち会う。三宅さんが「毎度!」と挨拶すると「あーい」とご主人の声が聞こえた。勝手口から入り、軽トラの水槽から降ろした魚を店の生簀へ入れる。「あ、さっき、取材してた人やな」どうやら、今朝ごった返していたお客さんの中にとっくりさんもいて、ほぼ毎日、生簀用の魚の仕入れに行き、予約したものを開店前に合わせて配達してもらっているんだそう。軽トラとお店を3往復ぐらいしたら、店の生簀は元気な魚で、いっぱいになった。「これで全部です。またよろしくお願いします!」「いつもおおきにな」。



今回、機会があって、
すべての工程に同行させてもらうことができた。環境の変化によりここ十年で漁獲高が減り、コスト面から活魚の仕入れをするお店も年々少なくなるなど生簀界隈にはこのところあまりいいニュースがなさそうだが、それでも魚屋さんや飲食店で、今朝まで淡路島周辺の海を泳いでいた魚を間近で見られて、美味しくいただけることは特別感があり、愉しい。島内にはまだまだ生簀のあるお店があり、水槽のタイプや見られる魚も店によりさまざまなので、興味を持たれた方はともにお魚探訪へ出掛けようではないか。

※取材協力/別所水産
南あわじ市福良乙343 tel.0799-52-0162
営業時間 10:00~16:00(小売は11:00~)定休日 水曜日
https://bessho-suisan.xyz/
【ついでに足をのばして…】
近くの福良漁協にも別所さんをはじめ、福良の水産会社さんの生簀があると聞き、見学。海中を網で区切ったものなどかなり大きい生簀が並んでいた。



》写真・文 ぽん
情報は2025年7月時点のものです