2024.12.09

紙のよさって何だろう?

special issue

デジタル化が進み、わたしたちの生活はずいぶんと便利になりました。
身近なものといえば携帯。 調べたいものがあれば検索するだけですぐに知りたい情報を教えてくれ、連絡だってスムーズ。 毎日の生活の中で欠かせない存在になってきています。
一方でアナログなものも大切にしたい自分もいます。
たとえば紙。手紙やカード、本など紙ものの種類はたくさん。 デジタルなものとの違いをあげるならば、手で触れることによって存在を豊かに感じることができたり、手書き文字で記されている場合は送り主のぬくもりや想いをよりつよく感じられることでしょうか。
時間が経つにつれ色あせることはあっても、それもまた良さ。 手にすると当時の記憶が蘇るなど、自分にしか分からない特別感もあるように思います。 今回は島内で紙について携わられている方や紙好きさんにお話を聞いてみました。 紙のよさについて、あらためて考えてみませんか?


やってみないと分からない、
その感覚が好き。

紙って本当に種類が多いんです。活版印刷という手法で栞を作っていますが、いつもどの紙を使おうかと、紙の見本帳を開いています。 ひとつひとつの紙、色ももちろんそうですが、質感やさわり心地など個性があって、とても迷いますね。
この金魚の栞の場合は絵が先行で、後から紙を選びました。 水面のようなフェルトマークが入ったマーメイドを使うことはすぐ決まったのですが、色には悩みました。 だって白だけでも「フロスティホワイト」「スノーホワイト」「絹」「白」「ナチュラル」と5種類もあるんです。 選んだのは「フロスティホワイト」ですが、どんな仕上がりになっているかは、実物をぜひ見て欲しいです。
紙はとても重要で、紙からインスパイアされて作る時もあります。 活版印刷はアナログな技術で、版画に近いんです。 1版につき1色の表現で色の分だけ重ね刷りをするんですが、どうしてもズレてしまいます。 なのにズレちゃいけない絵柄にしちゃうんですよね(笑)。
紙のいいところはやっぱり触れられるところですね。 そこに存在しているというところに惹かれるんじゃないでしょうか。

この1冊全部がマーメイドという名前の紙。
少しずつ風合いや色が違う。

▲金魚の栞完成まで
左から1刷ずつ色を重ねていく。
黄色の上に赤を重ねることで鮮やかな朱色に。目を刷るところがとても難しかったそう。

最近鈴木さんがトキメいた紙で作った栞。染料を使わず牧草のみで色付けされていて、かすかにお茶のような匂いが香る。

ASOBU KAPPAN 鈴木 遊さん
IG:@asobukappan

活版印刷ができるワークスペースとの出会いをきっかけに、ASOBU KAPPANとして活動を開始。本も好きでBook&Coffee coyomi内には鈴木さんセレクトコーナーも。お気に入りの本は「世界の紙を巡る旅」(浪江由唯著)


選ぶ楽しさと使う楽しさを感じてほしい。

昔から家に箱の試作品が自然とあって、紙にはなじみがあって落ち着きます。 紙は厚みや手ざわり、ざらついた触感など質感が違うこと、柄や色味のバリエーションがあるところが好きです。 選択肢や種類がたくさんあることで選べる要素が豊富なのが魅力に感じます。 お客様からオーダーをいただいて商品を入れる箱作りが主な仕事ですが、もっと紙に触れて選ぶ楽しさを知ってほしい、気軽に持てて気分が上がるものって何だろう?と思って行きついたのがこの「ひとひら」(カードケース)でした。
Aタイプ(たて型)とBタイプ(横型)があって、Aタイプは全部で60種類くらいあります。 Bもそのくらいかな?よくみなさん名刺入れとして使ってもらっているのですが、マイナンバーカードやお店のポイントカードなど、何でも自由に好きなものを入れて楽しんでほしいです。 うちは5人だけの小さな会社なので、従業員さんの意見も積極的に聞いて取り入れて協力し合っています。 紙質や素材、柄を一つ一つ変えているのできっと選ぶときにワクワクしてもらえると思います。 試作品を合わせるとあと200種類くらいあるので、これからの新商品も楽しみにしていただけるとうれしいです。 ちなみに僕は柄物が好きですね。 ポケットから出したときに「何それ!」とリアクションが欲しいので(笑)。
紙のカードケースの良さは持ったときのあたたかさだと思います。 ケースの薄さにこだわったので手にフィットする感じが良いんです。 外箱もついているのでプレゼントにもおすすめです。

こちらがAタイプ。華やかなものからシンプルなものまで、柄が違うだけでこんなに印象が違う。

上の箱をスライドすると開くことができる。

下3つがパカッと開くBタイプ。

津名紙器工業㈱ 安居 拓也さん 
IG:@agui_hakoya

今年創業60周年を迎える津名紙器工業の3代目。「あぐいのはこや」という屋号で自社商品も販売中。気持ちを乗せて届ける箱づくりに誇りを持っている。


良い紙に出会うとわくわくする。

パッケージをつくる仕事なので、紙ものは常にチェックしていますね。もともと紙好きなのでショップカードとか良いなぁと思って持って帰ってきたものは専用のボックスに入れて大切に保管しています。 そのときにしか出会えない紙もあり、貴重ですね。 最近つくったばっかりの自社のパッケージがあって。 それがこのレアチーズケーキなんですけど、我ながらすごく気に入っています。 この絶妙な色合いが特にお気に入りで。 大阪の製紙会社さんが作っている紙で、表と裏で色が違うんです。 両面ともきれいで手触りもよくて。 この紙の特性を活かせないかなと思って制作しました。
果樹園が作るチーズケーキというのをパッケージで表現したくて、手で引き出したときに淡路島なるとオレンジのオレンジ色と葉っぱの緑をデザインした紙を挟むことで自然に表現できたかなと思っています。 紙一枚あるかないかで印象が全然違ってくると思うんですよね。 普段からアンテナを張っていろんな会社に問い合わせて紙のサンプルを請求しまくっています(笑)。 その中でもいいなって思う紙って本当に少なくて。 だからこそ出会ったときの喜びは大きいし、たくさんの紙に触れることで「あのときのこれにしよう!」って何か形にするときに閃くきっかけになっています。

完成したレアチーズケーキのパッケージ。グレーベージュのようなやわらかい色味がかわいい。引き出し部分は裏面のホワイトが見えるつくりに。

上記の抹茶味ver.色違いの深みのあるグリーンでつくったのはひと切れ用。開くとケーキの説明がある仕組み。

森さんがデザインした北坂養鶏場のたまごパック。日常づかいのたまごとして見てもらうため、モールドパックのよさをいかし、シンプルに判を押すスタイルに。

森果樹園のリーフレット。実は包装紙に使うことができるらしい。

森果樹園 森 知宏さん 
IG:@morikajuen

祖父から受け継いだ農園で淡路島なるとオレンジを育てている。デザイナーでもあり、商品のパッケージは全て自分で手掛けたもの。自社のみならず、他社のパッケージデザインも手掛ける。


和紙づくりは面白い。

和紙の原料はコウゾ、ミツマタ、ガンピとあるんですが、偶然家の近くに「コウゾ」の木があったので、それを刈り取って和紙づくりを行っています。100キロ刈り取ったとしても最終的に和紙になるのは3キロくらいかな。和紙作りの工程では色をつけたり、型をつかったり、押し花で模様をつけたりと自分の好きなようにつくることができます。一番うれしい瞬間はやっぱり和紙が完成したときかなぁ。押し花も色付けの染料も玉ねぎやユーカリ、さくらでつくったりとすべて島のものでやっていますね。地合い※によって模様も色の付き方も変わってくるのでひとつとして同じ和紙ができないところもいいなぁと思います。あとはやっぱりぬくもりがあるところ。昔は障子紙として灯りに使うこともあったし、気持ちが安らぐやわらかい光が好きですね。わたしたちの工房の名刺や年賀状も和紙で作っているんです。すこしでもほっこりしてもらえたらうれしいなぁと思って。
淡路島における手漉き和紙の歴史は古いんです。古代において戸籍用紙を提出した十六国(越前、阿波など)の一つにあげられています。昭和初期に手漉き和紙は機械化によってなくなってしまったんですが、「淡路津名紙」として復活させました。和紙のもつ日本の伝統の美と心が伝わればうれしいですね。

工房にあったランプ。あたたかい光に癒やされる。

工房の名刺。手触りや風合いがとてもいい。

工房では原料のコウゾを見ることができる。

玉ねぎの皮を入れてつくった和紙。不規則な模様がたのしい。

取材時体験させてもらったポストカード。自分でつくるとより愛着が湧く。

和紙工房 松鹿 奥田 好治さん
http://sho-roku.com/

奥さんが和紙の小物を作っていたことがきっかけで、和紙作りに興味をもつ。島外で紙漉きの基本を学び、その後は独学で知識を積んだ。工房では和紙づくりを体験でき、島外からも多くの人が訪れている。


紙そのものを楽しむ作品づくり。

アナログに文字や絵を描くことが好きなので、紙はとても必要ですね。気に入らないときに綺麗に消せるデジタルも便利ですが、筆圧を感じて描く感触が好きです。イラストによって印刷をする紙を変えるんですけど、単色だったらザラザラとした紙に印刷してインパクトを出したり、水彩画などの繊細なイラストには光沢のある紙を選んだりしています。中でもハトロン紙という紙が好きで、これは表がザラザラ、裏がツルツルの特殊な紙なんですけど、敢えて裏面のツルツル部分に印刷を施して表面として使用したりして楽しんでいますね。子どものころから紙ものが大好きで紙の商品を買うだけでなく、貰ったキャンディの包み紙やお菓子のカンカンに貼られたシールまで気に入ったものがあれば丁寧に保管していました。まさか今、自分自身が紙を提供する側になるとは想像もしていませんでしたが、ルーツはそこにあったのかなと思います。

トレーシングペーパー封筒(タイトル:森)
すりガラスのような半透明の紙素材でつくった封筒。透ける特徴を生かしたデザインに。

便せん(タイトル:空と山のコラージュ)
澄んだ空の風景と穏やかな山なりをイメージしたもの。 紙の種類が柄によって異なっていて選ぶのが楽しい。

めくるのが楽しみになる毎年人気のオリジナルカレンダー。こちらもイラストに合わせて紙の種類を変えている。

イラストレーター RINWORKさん
IG:@rin_work

「日々の生活のふとした瞬間にちょっと良い仕事してくれる作品を」をテーマに思わずクセになる独特な表情や世界観でイラストを描く。ダンのステッカーや表紙イラストも担当。


本も本選びもアナログがいい。

本が好きなので自然と紙も好きですね。本についてだとやっぱり電子書籍より紙の本が好きです。ページをめくる感覚が好きなんですよね。あとは文章を読むのに電子書籍だと目が滑って読めなくって。紙はそういったことがないからいいですね。紙ものでいえば、スケジュール帳も愛用しています。書かないと覚えられなくて・・・(笑)。毎日のTODOリストもしますね。携帯でもしていたんですけど、打つのが面倒になってやめました。書いた方が楽だし目に見えて分かりやすいし・・・。タスクを終わらせて消すときに達成感も味わえていいです。ちょっと話がそれてしまうかもですが、ネットで本を買うと、オススメ商品を教えてくれるじゃないですか。あなたこれ好きでしょ?って。自分好みの本がどんどんオススメに上がってくると、本選びが偏ってしまうと思っていて。新しい価値観に出会いたいとかそういうときにはうちみたいな本屋に足を運んでもらって、いろんな本に触れ合ってほしいなと思います。

竹村さんお気に入りのZINE。架空筋商店街という名前のとおり作者が勝手に考えたユーモアあふれる看板が書かれている。リソグラフで印刷されていて色の重なりもきれいなのだとか。

原田治さんのポストカード本。一枚一枚デザインが異なっていて切り離せる。ポストカードとして使えるのはもちろん、額に入れてインテリアとして飾るのもオススメ。

ASOBU KAPPANさんがつくった看板ネコのハチの栞も人気。

Book&Coffee coyomi 竹村 琢さん
IG:@bookcoffee_coyomi

本とおいしい珈琲が楽しめる古本屋カフェの店主。店内には新旧の本が並び、大型書店などには並ばないマニアックなラインナップが人気。看板ネコのハチ目当てに訪れる人も。

愛されキャラのハチ。


気持ちを記すことは
昔からの大切な習慣。

紙もの大好きですね。関東に住んでいたころは文具店や雑貨店巡りをよくしていました。手紙のやりとりとかも昔からしていて、今でも特に記憶に残っているのがおばあちゃんのピアノの先生との文通なんです。その先生が「手紙は書きたいと思ったらすぐに書きなさい」とよく私に言ってくれていて。ずっとやりとりしていたんですけど、いろいろあって先生と手紙交換ができなくなっちゃったんです。その経験から「ありがとう」の感謝の気持ちなど伝えたいなと思ったときにちょっとした手紙を書くようにしています。紙ものの中では特にポストカードが好きで毎年結婚記念日には旦那さんとお互いポストカードにメッセージを書いて送りあいっこしているんですけど、普段は言えない感謝の気持ちとか文字にすると本音を書けたりして、そこが紙のいいところなのかなぁって思います。これからもずっと続けていきたいですね。

紙ものを選ぶ基準は「色使い」。ビビットな色からダークな色まで何でも好きで、色の重なりにもとても惹かれるそう。

富田さんおすすめのニシワキタダシさんのカレンダー。くすっと笑えるイラストが毎日を癒してくれる。

最近取扱いをはじめたひがしちかさんの紙ものたち。

TOMMY COFFEE STAND 富田 夢子さん
IG:@tommy_coffee_stand

小さい頃から映画のパンフレットなどお気に入りの紙ものは大切に保管する派。紙好きが高じて、コーヒー×紙ものショップをオープン。年々紙ものスペースは増え続けている。


(編集後記)

かくいうわたしも大の紙好きで、島のみならず島外や海外で出会ったお気に入りの紙ものたちは大切にしまい、時々覗いてはニマニマして心の栄養を貯えています。かわいいものに限らず、亡くなった祖母からの手紙も大切に財布にいれてお守り代わりにしていて、手紙を見るたび祖母が見守ってくれていると思えます。紙の存在が喜びや切なさ、かわいいと思うトキメキなど、文字を乗せて、入れ物にして・・・と、さまざまな感情を与えてくれる気がします。
そんなわたしたちが企画しているダンも紙もの。おかげさまで昨年25周年を迎えることができました。読者の方からのハガキやメールは何よりも励みで、いつも編集部みんなで見ています。中でも「この号は保存版です」や「いつも全て大切にとっておいています」というお声をいただくと、みなさんの生活の近くにダンはあるのだなととても嬉しくなります。いつも広告を掲載してくださるクライアント様も本当にありがとうございます。今月から新たなコーナーもスタート。 2025年のダンもみなさんに楽しんでもらえるような企画を計画中です。どうぞおたのしみに。


今月の特集よりドドンと23名様にプレゼントがあります。
詳細は誌面をチェックしてください。
たくさんのご応募お待ちしています。
(応募締め切り:2024年12月20日(金)まで)

<取材・撮影>チル子
※写真一部提供あり
※情報は2024年11月末時点のものです

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この記事を書いた人

dan

淡路島の地元情報誌dan編集部です。


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